福地工房

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新米メーカー技術者が工作したり遊んだりしています。

【飛行力学】参考文献まとめ

鳥人間を3年弱
航空専攻の大学院に2年
航空機メーカーR&D部門3年目

若輩者の私自身が勉強や実務に用いている、主に航空機設計および空気力学に関する特に参考となる書籍をリストにして、ブックレビュー的に紹介します。ラジコン機、鳥人間の滑空機から実機までと、個人的な幅広いニーズを包含しているのでやや混乱するやもしれませんが、ご了承ください。

なお、このページは今後また更新していく、かもしれません。

学習の習熟度に応じて初学向け、中級向け、上級向け、と分けてみました。

 

 

航空機設計

Aircraft Design (Daniel P. Raymer)

Amazon | Aircraft Design: A Conceptual Approach (AIAA Education Series) |  Raymer, Daniel P. | Aeronautics & Astronautics

【中級向け】
通称”レイマー”。世界にその名が轟く航空機設計のバイブル。 分厚いし1万円程度する洋書であるため、なかなか手が出ないが、設計の初期段階で色々仮定をしつつ数字を決めていく作業(いわゆる概念設計)において様々な指針を与えてくれます。

翼、舵面の大きさの決定、重量・慣性モーメント推定、性能(フライトエンベロープ、旋回性能、上昇性能など)の推算・・・と、幅広い内容を含む。空気力学の項はほぼDATCOMの計算方法と同じ。

巻末の手書きの計算過程を追っていくと、実際の概念設計作業の手順が終えるので、設計チュートリアルとしておすすめです。

 

Fundamentals of Aircraft and Airship Design (Leiland M. Nicolai, Grant E. Carichner)

 Amazon | Fundamentals of Aircraft and Airship Design: Aircraft Design (AIAA  Education Series) | Nicolai, Leland M., Carichner, Grant E. | Aeronautics &  Astronautics

【中級向け】

似た機種の空力係数や、重量情報を拾ったり、あとは離着陸距離の簡易推算法など、Raymerでは包含していない内容がカバーされており、たまに読みたくなります。

 

航空力学の基礎(牧野光雄)

【中級向け】

通称「銀本」。飛行機の設計に関して、抑えておくべき基本的な内容が多く書かれています。ただし、翼理論に関する説明がやたら詳細であったり、式の導出が結構すっ飛ばされていたりと、初学で通読するにはつらいかもしれません。

航空力学の教科書として広く浸透していますが、鳥人間や軽飛行機の設計入門としては後述の「飛行力学の実際」や「航空工学概説」を個人的にはおすすめします。

 

飛行力学の実際(内藤子生)

飛行力学の実際 | 内藤 子生 |本 | 通販 | Amazon 

【初学向け】

富士重工T-1、FA-200の設計者である内藤先生の著書。

上記に挙げた機体規模のような単座・複座の小型機に特化した内容と見られるが、こちらも飛行機設計論同様、実設計にそのまま使える具体的な内容が豊富。ドラッグポーラーの簡易推算法、安定性要件を満たす形状トレンド、避けるべき急所となるようなポイント…など。

学者が体系的にまとめた教科書というよりも、実際のエンジニアが記した研究成果といったところか。文面に力強さを感じる。

新品ではもうあまり出回っていないというのが難点ではありますが、模型飛行機から小型有人機まで、設計書の入門としては最適と思います。

 

飛行機設計論(山名正夫, 中口博)

飛行機設計論 | 山名 正夫 |本 | 通販 | Amazon

【上級向け】

「設計論」と謳うとおり、実務的な数値を出すことに重きを置いている(私は頭がそんなに良くないので、こういう具体的な話から入る方が好みではある)。各章の説明が丁寧であり、情報量が多い。そしてポエムもある。

各所設計値の大まかな目安についても記載が多いため、実用的(飛行機の設計では多くの場合、似た機体の統計値に寄せてパラメータを設定します)。

現在絶版であるというのが痛いが、理工書のある図書館や航空図書館でぜひ一読はしておきたい。

 

航空工学概説(村山尭)

明倫館書店 / 自動車・船舶・鉄道・航空工学

【初学向け】

文量はそれほど多くなく、翼の話から飛行機の安定、性能計算まで、浅く広く必要なことが網羅されています。装備品の章があるのが特徴的ですが、防衛大学校教員が書かれたものというのだから成程頷ける。

こちらも中古本しか出回っていないのが難点ですが、理工系の本が置いてある図書館あたりで、初学に目を通しておくと良いと思います。

 

図解入門 よくわかる航空力学の基本(飯野明)

図解入門よくわかる航空力学の基本 (How‐nual Visual Guide Book) | 明, 飯野 |本 | 通販 | Amazon

【初学向け】

上記のやつ、全部難しそうって方は、まずこれから読むと良い。
物理を習った高校生が読んでも、割とスッと入ってくる程度のレベル感です。雑学として「飛行機のことを知りたい!」というニーズに合致すると思います。

 

模型飛行機と帆の科学(東昭)

模型航空機と凧の科学 | 東 昭 |本 | 通販 | Amazon

【初学向け】

身近な例から、飛行力学を理解するならばこの本が良い。ペーパープレーンや模型飛行機などのクラスでは、重心セッティングがやや実機と異なったり、凧の力学が航空工学で理解できたりと、このページで紹介している書籍とは違ったテイストでとても面白いです。

 

空気力学

空気力学の基礎

空気力学の基礎 / アンダーソン,Jr.,ジョン・D.【著】〈Anderson,Jr.,John D.〉/山口 裕/樫谷 賢士【訳】 -  紀伊國屋書店ウェブストア|オンライン書店|本、雑誌の通販、電子書籍ストア

【中級向け】

2016年に発売したAnderson先生の和訳版。
空気力学を包括的に学ぶ上では、式展開などが丁寧で、練習問題も豊富なのでおすすめです。等エントロピーの物性値なども巻末に掲載されているので、実用上も重宝します。

ただし、めちゃくちゃでかい&重いので、持ち運びに向かないのが難点。

 

Fluid Dynamic Drag(Sighard F. Hoerner)

archive.org

【上級向け】 

通称”ホエルナー”。空気力学の黎明期に、数ある実験データや理論を1つの冊子に”Drag”というテーマでまとめ上げたすごい本。ざくっと抗力を見積もりたいときや、オーダー感を知りたいとき、またはちょっとした突起物などのミスレニアス抗力を算出したい際に便利です。

著作権が切れているため?リンク先でpdfを無料ダウンロードできます。

 

Fluid Dynamic Lift(Sighard F. Hoerner)

archive.org

【上級向け】

Hoerner先生の"Lift"版。これの出版の前に著者は亡くなられたそう。本書の内容はは、”Drag”に比べてぼちぼち出回っているような印象なので、”Drag”ほど読まないかもしれません。私が活用しきれていないだけでしょうか。

 

Theory of Wing Sections (Ira H. Abbott, Albert E. Von Doenhoff)

Amazon | Theory of Wing Sections: Including a Summary of Airfoil Data  (Dover Books on Aeronautical Engineering) | Abbott, Ira H., Doenhoff, A. E.  von | Aerodynamics

【上級向け】

NASAの研究者がまとめた翼型についての本。翼型について体系的に知れる本としては、これと「翼型学(西山哲男、日刊工業新聞社)」あたりでしょうか。よく使われる翼型の、レイノルズ数や速度による違い(模型飛行機、軽飛行機、遷音速、超音速など)、特性による違い(層流系、失速特性など)、系譜の違い(RAF、Göttingen、Eppler、NACA)等々、奥が深い…あるいは、沼か。

余談ですが、飛行機設計において翼型の開発から入るというのは、かなり本気度が高いです(生半可な努力では、これまで使われている翼型性能を超えることは難しい)。必要がない限りは、求める性能に近い翼型を使用するか、ブレンドする程度にとどめるのが、工数的に無難と言えます。

 

飛行力学

航空機力学入門(加藤寛一郎, 大屋昭男, 柄沢研治)

航空機力学入門 | 加藤 寛一郎 |本 | 通販 | Amazon 

【上級向け】

安定微係数の推算方法、飛行機の運動方程式について詳しく記載されています。これを理解すれば、鳥人間滑空機の飛行シミュレーションが可能となる。

非常にマセマティカルであり、飛行機の基本動作などがある程度わかっている状態で読まないと難しい。

 

航空機の飛行力学と制御(片柳亮二)

航空機の飛行力学と制御 | 片柳 亮二 |本 | 通販 | Amazon

【上級向け】

三菱重工の制御設計者が書く、飛行機の制御系の極・零点、根軌跡など、安定性についての本。飛行機の安定と言うと、機体自体の自律安定(静安定)と、操舵系も含めた動安定の2種類を指すことがあるが、本書は後者の動安定に関する話題に特化しています。

ここまで読めると、いよいよ昨今の現代制御マシマシな飛行機設計の足掛かりが掴めると思います。現代の飛行機は制御なしには語れず、無人機は言わずもがな、有人機に対してもあらゆる操縦を補助する制御が入っています(自動車の直進安定、パワステ、デファレンシャル、ABSなどのイメージ)。これに加え、人間が操縦する並みの判断力を持ちうる最適制御・経路生成や複数機の同時制御など、更に高度化・広範囲化していっています。

 

構造設計

飛行機の構造設計(鳥飼鶴雄, 久世紳二)

鳳文ブックス / 飛行機の構造設計

【初学向け】

実際の航空機構造の絵や説明が豊富。まずこれを読まずして構造は始まらないという感じです。航空機の構造部材の名前も多く記載されているため、初学者にもお勧めできます。

 

航空機構造 -軽量構造の基礎理論-(David J. Peerry 著, 滝敏美 訳)

航空機構造 ―軽量構造の基礎理論―: 軽量構造の基礎理論 | ピアリー,デイビッド J., Peery,David J., 敏美, 滝 |本 | 通販  | Amazon

【中級向け】

著者前書きより、「学部学生や現場の技術者が侵す重大な誤りの多くは、単純な力の釣り合い式を適用する際の誤りに起因している」。・・・耳が痛い。

また、同業の構造設計を専門とする先輩曰く、「構造は価値を生まないが、構造がないと価値を生まない」とのこと。軽量構造設計の例題が豊富なので、時間を取ってやってみたい(私はまだやってない)。