福地工房

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新米メーカー技術者が工作したり遊んだりしています。

モビールを贈ろう

1.はじめに

㊗大学時代のサークルの同期夫婦に子供が生まれたらしい。

そこで、サークル同期でお祝いを贈ろうという話になり、とある1人が言った。「俺らものづくりサークルだったじゃん?普通に送るのもつまらんから、何か皆で作ろうぜ」などと。仕方がない、なんか面白そうだとも思ったので、皆で何を送るか考えた。その結果、モビール(ベビーベッドとかに取り付けて、人形とかを吊り下げてくるくる回るアレ)を贈ろう、ということになった。
この話をするまで知らなかったのだが、モビールとはただのおもちゃではなく、赤ちゃんの目が見え始めた時期に、動きや色、形を認識することで色彩感覚と空間認識能力を養う役目を果たしているのだそう。詳しいところは専門的な文書をあたっていただくとして、このページでは製作したモビールと、それを贈った結果について、徒然なるままに書いていきます。

2.コンセプト設計

まずはどんなコンセプトのものを作ろうか?ということから考えた。モビールの役割と、サークルのノリを掛け合わせることで、下記のようなことが要件となった。

・カラフルなこと
・複雑な動きをすること
・みんなで贈った感を出す
・構造はカーボンであること(夫婦はサークル時代カーボンを扱う班だったため)

構造は自分が作り、吊るすものは他の有志の皆で作るということにした。
構造様式としては、複雑な動きをする方が面白いし発育上も宜しいということなので、なるべく自由度の高い(可動部の多い)構造を採用することとした。

次に吊るし方を考える。
事前に父親に聞いたところ、どうやらベビーベッドではなく、布団に寝かせるとのこと。発育としては、ベビーベッドよりも自由に動けていいらしい。下記URLの先人が、吊るし方を色々考えていただいている。布団を使うということであれば、屋内鉄棒を使うのがちょうど良さそう。少し大きくなってからは運動させるのに使えるし。

ベビーモビールの吊るし方・アイデア まとめ | Baby Mobile ブログ

そんなこんなで構想を練っていく
形と吊るし方を決定

3.製作

3.1.構造

構造はカーボンだが、固いし端部は鋭利なので、安全対策は特に気を遣う。端部には緩衝材として発泡スチロールをエポキシで固定し、凧糸は結び目を複数設けて最後に接着固定した。また、500 mlペットボトルを用いて荷重試験を行った。別にこんなに重いものは吊るす予定にないし、衝撃荷重も特に加わらないが、これだけ安全に見て置けばまあ強度不足による落下はまずないだろう。接着など、物と物の接合部から破損することがあるため、特に注意する。

凧糸を複数箇所結ぶ
クイックファイブ
緩衝材の発泡スチロールをカーボンロッドに固定する
荷重試験も無事クリア

3.2.吊るすもの

年始にサークルOB同期の何人かで集まって作った。
生まれたのは女の子なので、花やモールでお姫様感を出した。また、野菜や果物をたくさん食べるようにと、フェルトでそれらも作った。…いや、シナモンとかサンリオキャラがいるね(手作りだっつってんだろ)。色々カオスだけど、いい感じにまとまってきた不思議。無機質なカーボンだけの構造から、悪くない感じなってきた。

色々吊るした結果
キウイの増援も届く(クオリティ高え)

3.3.電装類

「できれば自動で回したいよね」とか宣う人がいたので、自分もなんか回したくなってきた。何なら、回っている最中に音楽も流したくなってきた。
なので、簡単な電装部品を追加して作った。モータはタミヤの減速ギア付きモータ、音楽は電子オルゴールの「きらきら星」にした。
動作音的に音楽を流そうとしたが、電子オルゴールの音がトラウマになる可能性に配慮し、急遽、音楽スイッチは回転スイッチと別に設けた。

回路は小学生でもわかる簡単な直流電源とスイッチの回路。これがモータとオルゴールで並列になっているだけ。電子工作初心者なので、こんな簡単なものでも、ちゃんと描いて確認しないと平気でショート回路を作ってしまう。

電装類の回路とレイアウトを検討
そこら辺の余り木板に、スイッチをはめる穴を開ける
スイッチを取付け、モータ取り付けイメージを固める
接着強度を高めるため、モータ取り付け部を掘る
レーザーカットで回転と音楽スイッチのアイコンを切り出す
アイコンとモータを木板に取り付けた状態
裏面も配線して固定

ここまでやったら、スイッチを入れて問題なく動作することを確認する。

怪我をしないように端をトリム
ホットメルトで絶縁

最後に構造材をモータシャフトの先に取り付けて、動作確認をする(下記動画)。問題なく回っていますね。思ったよりモータ動作音がオルゴールに対して大きいなという感想。モータ音とちゃっちい電子オルゴールが何とも言えないハーモニーを生んでおり、楽しいと取るか不気味と取るかは人に依るんではないかな?(次からオルゴールは物理的なものにして、モータ回転と連動するようにしよう…。)ともあれ、無事に狙い通りの動作が確認できたので個人的には満足。

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3.4.予算

今回かかった予算を参考までに示します。
鉄棒はオプション。構造としてはカーボンが一番高かった(これは完全なる内輪ネタなので、真っ先に削れる予算と思う。普通に木材やプラでいい。)。
皆で割れば大したことない額になった。

購入品一覧

4.ユーザーの反応

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「…なんだこれは?」


この世に生を受けて間もないというのに、こんなハイコンテクストな物体を見せられては、もう唖然とするしかない。しかし両親曰く、モータによる回転と不規則な動きが相まって、かなり興奮してくれたらしい。いや、とても可愛い。

5. まとめ

ということで、サークル同期でプレゼントを作って贈った。
中々に癖の強いものを押し付けた感があったけど、喜んで使ってくれているようで安心した。

製品説明書

今回のような、手作りの贈り物というのは、自己満と他人に寄り添う絶妙な距離感を探る行為であり、まじめに考えると結構慎重になるものと思う(手がかかっていたり、知り合いに貰ったりすると中々捨て難かったりするからね)。まあ、使わなくなったら捨ててもらっていいのだけど。
余談ながら、研究開発といった仕事を生業としている自分は、普段は顧客から「ありがとう」と言われる類のものづくりをしない。感謝されるものというのは、わかりやすい価値を既に生んでいるから。それゆえ、技術的にはかなり蓋然性のあるもので、特に最新技術でもないし高度なこともやっていないケースが殆どとなる。今回も、やっていることは小学生の電子工作と、ちょっとした木工やカーボンの加工であり、一つ一つの作業は子供でもそう難しくはない。だが、必要な機能を最小限に詰め、あとは贈り先を考えてちょっとした気遣いや遊び心を入れるとか、そういうところに価値があるようなものづくりも、普段の仕事や趣味とは違った面白さがあるなあ、と感じた。
なんか、そんな難しい話をするつもりは無かったのだが、まじめに考えてしまった。

皆で作ると、どうまとまるのかわからない感じが良いね。同じ環境で過ごした人たちでコンテクストが共有されていれば、何となくいい感じに収まっていくというのも、上手く出せた作品に仕上がったと思う。
ということで、生誕おめでとうございます。たくさん野菜と果物食べてください。